毎日卵かけご飯

好きなものを食べて好きなことして生きる

煌めきを歪ませて。


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繁華街の最寄り駅。

時計の短針が残り半周にさしかかる頃、女子トイレはたちまち煌めき出す。

散らかり放題の化粧台から顔を上げると、右も左も鏡の自分と睨めっこ。一ミリ単位で仕上げるアイライン。キラキラと星を散りばめるまぶた。熟した苺のような美味しそうなリップ。

華やかな香りをまとい、彼女たちは意気揚々とイルミネーションまぶしい街へ向かっていく。

 

今日は12月24日。

 

クリスマスイヴともなればいつにも増してそこは煌めいていた。

雪が積もりそうな長いまつげに仕上げるために、三度目のマスカラを塗る。時計を見ると20時。そろそろ彼の仕事が終わる頃。連絡はまだない。

イタリアで買った赤いバッグに、靴はスペインで買ったソールの赤いお気に入り。襟元がラビットファーのアウターに包まれて、右手にはグリーンのラッピングシートにゴールドのリボンが可愛らしい小さなプレゼント。気に入ってくれるといいなって随分前に買った。

 

まだ仕事が終わらないのかなって、駅ビル内のカフェで時間つぶし。甘い甘いホイップにピスタチオとドライベリーがクリスマスらしい甘い甘いショコラテ。

 

「今日の私は一段と可愛くて、だから一段と可愛く見える飲み物にしよう。」

 

プレゼントとショコラテを、いい具合に街のネオンをバッグに一枚。SNSに今日は楽しみなクリスマスって。インスタ映えしてるよね。

のんびりと、彼に想いを馳せながら、ショコラテは期待と体をあたためていく。

仕事、まだなのかな?年の瀬は忙しいもんね。進む時計を見送りながら、ぼんやり街を眺めて。今年も雪こそ降らないものの、かじかむ指へ吹きかける息は白く、ブーツのつま先から寒さを感じる。

 

マグカップのロゴが透ける頃、彼からの連絡はまだ来ない。でももう21時半だし、そろそろ来てもいい頃だよね。

カフェを出て、化粧直しへ行く。相変わらず、そこは煌めいていた。塗り直したルージュ。うん、可愛い。きっとうっとりするようなキスをしてくれる、そんな期待もしてしまう程カンペキな仕上がり。

閉店し始めるショップを横目にふらふらとウィンドウショッピング。ショウウィンドウに反射する自分を見て、更に自画自賛しちゃったり。自然と口角が上がってしまうのは、彼に気に入ってもらえるようなスタイリングができたことと、聖夜へのときめきと、会いたかったよ可愛いねなんて言ってもらえるかな?なんて妄想から。

 

「こんな日に私と会ってもらえるなんて、幸せだなぁ…。」

 

にこにこというか、にやにやに近い高揚感を振りまいて、時はもう22時過ぎ。シャッターの下りた店の前、吹き込む風が妙に冷たく感じる。あと五分で連絡くるかなって、時計を見たのはもう何十回。ごめん、やっぱり無理だって連絡が来て、肩を落として帰る妄想が始まる。いやいや、だめ。首を二三度振って深呼吸。引き寄せの法則ってあるじゃない。そう言い聞かせて楽しい妄想を再開。すると彼から連絡が一通。

 

まだ職場

 

そっか。なかなか終わらないよね。お疲れ様、待ってていいなら待ってるよ?って、責めもせず、落ち込みも見せずさらっと返信。面倒だなんて思われたくない。

まぁ、だめなら連絡くれるよね、現状報告くれたのはきっと待ってていい証拠だよね。

気を持ち直して、ホットジャスミンティーを買う。そろそろお腹も空いたけど、我慢我慢。彼だってご飯も食べずに仕事頑張ってるんだから。

そう、全力で自分を励まして、口ずさむのは好きなアイドルの曲。世間はクリスマスソングに溢れているのに、何故だか出てこない。ぼんやり口から零れたのは興味が無かった相手に首ったけになってしまったという片思いソング。重ねてしまって可哀想な子。そう自覚するまでさほど時間はかからなかった。

 

短針が上り詰めそうな23時半。昔から待つことは得意だから、こんなもの苦でもなんでもないのだ。苦ではないが、無駄すぎるとは思う。昔からそう、こういう無駄をしがちなのだ。振り回されて、待たされて。結局ドタキャンなんて両手じゃ足りなくて。それでも今日は会えるかもしれないって期待するのはギャンブルにどこか似ている。酷い浪費だ。

三度目の化粧直しに鏡の前に立って。左右にいるのは帰り支度をする幸せそうな女の子達。直すほど崩れているわけもなく、目の前の可哀想な自分が可愛いと思う私の、口角を少し上げてあげる。うん、可愛いよ私。悲劇が可愛いどうしようもない女なのだ。準備したプレゼントにお返しはない。彼が使ってくれるものを厳選するのも疲れた。だって、半端なものあげたって、奥さんに使われたらたまったもんじゃないでしょ?

23時45分。待っててとLINE。うん、待ってるよ。可哀想で可愛い私は待ってる。この時間も、彼との時間も、虚しさしかないけれど。

 

だって私は虚しくて可哀想な姿が一番可愛くて、一番愛せるのだから。

早く来るといいな…今日も三時間だけ私のもの。