犬神家の一族~クラウドファンディングで作る舞台
声優 関智一氏座長の劇団ヘロヘロQカムパニー第34回公演である「犬神家の一族」を観劇した。
緑豊かな那須の湖畔で一族が崩壊していく事件が探偵金田一を翻弄する。愛と憎しみのミステリー。
今回、この舞台を興行するにあたり、クラウドファンディングで舞台装置をグレードアップしようと企画された。
上記サイトで行われたクラウドファンディングはなんと2,000円から300,000円と幅広い設定金額。
もちろん、金額によって特典は違う。
この次の7,000円からチケット優先購入権利がつき、50,000円から1ステージご招待となる。
最高金額の300,000円のサポートを行うとこんなにも沢山ついてくる。凄い。
91,000円はチケット代だし、公演DVD約10,000円、全グッズと考えるとだいぶ安く感じてくる。私も300,000円とはさすがにいかないが、50,000円は有りでは?と考えたほど。
募集から数週間後の締め切りで集まったのはなんと1,000万円近い支援。
目標の三倍超え。凄い。
今回錚々たる顔ぶれが揃うため、これだけ集まっても納得できてしまう。
そしてこの支援金額がどのように反映されたのか。この目にせんといざ劇場へ。
新宿 全労災ホール/スペースゼロのステージには両サイドに大きなやぐら、螺旋階段。スクリーンへは犬神の家紋が映写されており、いざ幕開けすると、そこにあったのは昇降用階段を中央に据えた二段の舞台。このステージ、会場の規模でみたらかなり作り込まれている。上手が主に那須ホテルの一室となり、下手が展望台や柏屋などに使われるが、どちらも一階二階と別室兼出捌け口としてセットされている。さらに細かいところを見ると開き戸で履き物が収納できる。
(私は舞台をみる上で特に注視して評価対象としているのが舞台セットと衣装としているため、現時点で高評価。)
ストーリーが進むと、那須にある湖畔沿いの邸宅で事件が発生する。有名なスケキヨの死体もこの湖畔の中。もちろん水を使えるわけではないため湖畔の背景、水面をスクリーンに映写する。その映写された水面に小船がすべるシーンの演出は目を見張る。対岸から覗く双眼鏡の望遠、視線の移動、シーンの切り替えがこんなにも滑らかに流れていくものか。
中央のセット組がまた凄い。集まった1000万のうち何割がココなのかと思う。某男装の麗人と美女らの歴史ある関西の劇団や某季節のミュージカル劇団ではよく見るが、まさかこの規模で使われるとは。これにより背景の幅は2倍どころか演出次第では無限大。屋内、屋外の表現から、邸宅と別邸と警察施設と屋内でも差がつけられる。シーンが変わる毎に変化するセットも一つ一つ丁寧に細かく作り込まれている。これにスクリーンが上乗せされるのだから何でもできてしまう。一体、裏で何人の劇団員が動いて成り立っているのか…。更に行動範囲を広げるべく客席通路も巻き込んだ大掛かりなセットだった。
出演者の衣装、小物にもこだわりが感じられる。昭和初期の和洋折衷のコーディネート。特に女性陣の着物は回想も含めると10着以上。側室三人の着物と女中とで当然ながら品位に差をつけ、かつ20代であろう回想ではヘアスタイルも含め若々しいコーディネートがされていた。男性陣のモダンなシャツ、金田一のトレードマークであるスタンドカラーシャツと薄墨色の袴も良い。
かの有名なスケキヨマスクも薄手のラテックスで視界、発声が確保でき、尚且つ三時間の長丁場を被り続けられ、フィットする作りに見えた。また、事件解決場面の回想シーンで登場する長沢美樹 氏演じる松子もマスクが用いられており、あまりに忠実さに、どちらが本人か喋るまでわからないほど。
原作小説や映画を知っていても、犬神家の一族を湖畔の足とスケキヨマスクしか知らなくても、十二分に楽しめる作品。
笑いあり
憎しみあり
親子愛あり
三時間休憩なしの一幕につき、息つく間もなくストーリーが進む。犬神家家宝の「斧・琴・菊(ヨキ・コト・キク)」に準えて事件が起きる。走る金田一、背後に迫る謎の男、淡い思い出、憎しみに憎しみが重なる過去、明らかになる真実…名俳優陣が魅せるミステリー。
クラウドファンディングが作る舞台はまるで『舞台』であることを忘れるほどに、シークエンス単位でもカットワークを多様化できるものだった。それも脚本演出に実績のある座長 関智一 氏の手腕あってこそ。
満足度の高いエンターテイメントである。当日券もあるそうで、公演期間中都合のつく方には是非是非お勧めしたい舞台だ。
原作
横溝正史
脚本・演出
関 智一
出演者
関 智一/長沢美樹/那珂村たかこ/置鮎龍太郎/柗本和子/名塚佳織/野島健児(青二プロダクション)※Wキャスト/森田成一(青二プロダクション)※Wキャスト/楠見尚己(新宿625/マウスプロモーション)/辻 新八(オフィスPAC)/中 博史(賢プロダクション)/世田壱恵(銀プロダクション)/大場達也/下川真矢(BOS-Entertainment/GLEAN MEDIA)/湯田昌次(劇団ソコソコ)/大高雄一郎(Theatre劇団子)/大谷秀一郎(演劇制作体V-NET/アトミックモンキー)/三原一太(はらぺこペンギン!)/湯田陽花/三石琴乃/中尾隆聖(ドラマティック・カンパニー/81プロデュース)/近藤浩徳/杉崎聡美/飯田誠規/岩崎諒太/加藤杏奈/久保梨瑛/正野大輔/進藤初香/大石達也/小林慎之介/相原美沙/大村 彩/井上舞香/稲垣祐希絵/植田恭司/光部 樹/櫻井 殊/藤本由布菜
2017年4月22日(土) 13:00~★ / 18:00~☆
2017年4月23日(日) 13:00~☆ / 18:00~☆
2017年4月24日(月) 19:00~★
2017年4月25日(火) 19:00~☆
2017年4月26日(水) 19:00~☆
2017年4月27日(木) 19:00~☆
2017年4月28日(金) 14:00~☆/ 19:00~☆
2017年4月29日(土) 13:00~★/ 18:00~★
2017年4月30日(日) 15:00~★
会場
全労済ホール / スペース・ゼロ (所在地:東京都渋谷区代々木2-12-10 全労済会館)